中畑文利さん
【漆掻き用具製作・農鍛冶職人】

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自分がいなければそれを使う人たちもいない。自分の仕事に誇りを持っています。
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——— 鉄を金槌で打つキンキンキンという軽い音。竈の中で赤々と燃える炎。その竈の中に空気を送り込む、ふいごのゴーゴーという音。鉄を竈の中の火にくべ軟らかく溶かし、真っ赤になった鉄を金槌で打ち、さらに火にくべ、大きな鋏で軟らかくなった鉄を切り、形を整えて・・・。長方形だった鉄の板がどんどん掻き鎌(漆掻き道具)の形になっていきます。(漆掻き道具を作っているところ)

日本の漆文化を支える重要な役割を果たしているのが、漆の液(漆の木が出す樹液)を採取する掻き子さん(漆液を採取する職人さん)。漆採取には、漆の木を痛めないようにすることが良質の漆を多く採集するポイントです。そのために、特別な道具が使用されているのです。今回は、その特別な道具・漆掻き用具を製作している中畑文利さんにお話を伺ってきました。

漆掻きをする際には、採取する工程によって種類の違う道具を使用します。中畑さんは、用途・形の違う漆掻き用具の特殊技術を先代から受け継ぎ今も製作している、漆掻き用具を製作する唯一の存在です。それぞれの工程に使われる道具には、漆の樹皮を剥ぐための「皮剥ぎ鎌」、生皮に掻き溝を切り込む(辺掻き)ための「掻き鎌」、 滲み出てくる生漆をすくい取るための「掻きベラ」、すくい取った生漆を入れるための「漆壺」があります。中畑さんは、このうち、皮剥ぎ鎌、掻き鎌、掻きベラを製作しています。

記者(以下、記):中畑さんは、漆掻き用具製作ということで文化庁の選定保存技術に認定されていますけれど、普段は漆掻き用具だけではなく、他の道具もいろいろ作っている鍛冶屋さんですよね。

中畑さん:普段は農具全般を作っています。鍬、鉈、鎌など。若いときから農具を作りたかったんですよね。

記:漆掻き用具だけを作っているわけではないんですね。漆掻き用具は変わった形をしていますけれど、中畑さんが発明されたのですか?

中畑さん:いいえ、そうではなくて、こういう形をした物が元々あったんです。その現物を、師匠でもある親父が見て作り方を考え、独自に特殊技術を確立し作り始めました。ですから、私の親父が覚えて作り始めるまで、この道具を作っているところっていうのは当然見たことがないわけです。たとえば漆掻き鎌には、漆の樹皮を剥いで溝をつけるためにヘアピンのように曲げているところがあるのですが、それをどういう角度で、どういう風にして曲げるか、というのもわからなかったんです。

記:作っているところを見た事がないということは、その現物しか頼りになるものがない、という事ですよね?

中畑さん:そうです。しかも新品の道具を見せてもらえる事がないのです。掻き子さんが使い込んで少し変形した物を見せてもらって、そこから覚えていくので、なかなか大変でした。

今でもだいたい10個作って1個か2個は壊れますよ。1つの漆掻き用具を作るのに何度も作り直すこともありますしね。ただ、ある程度出来上がるともう作り直せないので、また新しく何回でも作り直します。作ったものを並べておいて、次に作る時と比べながらやっていきますね。たとえば、曲がる部分にひびが入ったりするんです。そうするともうダメ。捨て物です。この辺にポンと捨てちゃう(笑)。ずっと漆掻き用具だけを作っていればいいのですが、私は鍛冶屋ですので、ほかにも色んな物を作っています。他の物を作り始めてしまうと、今度また漆掻き用具を作り始めるときに、感触が戻るまでどうしても時間がかかってしまうんですよね。

今作っているのは、仕上げていくとこういうかっこ(途中まで出来上がった物を出してもらった。r型。)になります。この段階のものをいっぺんに作っておいて、注文が来たら、その人の癖や希望に合わせて形を作るんです。

記:一度に何個ずつくらい注文がくるんですか?

中畑さん:だいたい、5〜6個ですね。

記:鉄に切り込みを入れるための大きなハサミも、何気ないけどすごい道具ですよね。

中畑さん:これも自分で作るんです。自分が使う道具は、全部作ります。

記:へぇ!必要な物は全部作っちゃうんですね。

記:この漆掻き鎌には、どのへんにこだわりがあるのですか?

中畑さん:とにかく、使う人が使いやすい道具を作るということですね。漆掻き用具について言えば、木を引っ掻いて溝を付けるときに木屑が出てきます。その木屑が詰まらないように工夫してつくりました。それから、右から掻いても左から掻いても、同じように溝が出来るような角度をつけています。皮むき鎌に関して言えば、反り具合にこだわっています。お客さんによって、反っているほうを好む人、そうではない人、それぞれ違うので。へらは、漆液がへらからこぼれないように工夫しています。溝から出た樹液をへらですくって、それをダカッポ(漆を入れる容器)まで運ぶ間に、こぼれないように。

記:漆掻き用具ひとつを作るのに相当の手間がかかっていると思うのですが、いくらぐらいするのですか?

中畑さん:私の所からは1万円ちょっとで出ています。朝から1日に3本くらい作るのですが、失敗すればその日は全部パー。とにかく使ってくれるお客さんに満足してもらえて、自分が儲かれば一番いいんですけれど、やっぱり職人だから、儲からなくても作ったものが出来上がってその出来具合に満足すればいいんですよね。一日かかって一万円稼げない時もありますから。もの作りに没頭して、何回でも直しちゃうので。

記:今回中畑さんにお会いするまで、そもそも漆の掻き子さんがいるというのも知らなかったですし、ましてそのために使う漆掻き用具を作っている人がいる、なんて全く知らなかったです。なんでもそうだと思うのですが、中畑さんの場合特に同業者が少ないこともあり、自分がいなければやっていけない人がいる、ということを強く感じていらっしゃると思います。そんな状況で仕事をされているということに関してどう思われますか?

中畑さん:漆製品を作る工程の中では自分の役割が一番底辺になっていると思います。自分が道具を作らないと、漆の掻き子さんが仕事にならないでしょう。漆の掻き子さんがいないと、今度は漆液がない。そうすると、お椀なんかの木地を作る人も、漆を使う作家さんも作品を作れなくなってしまう。そういうふうに歯車がかみ合って回っていて、一つの物ができているのです。表だ裏だという話ではないですが、私の仕事は直接前に出る仕事ではないのだけれど、やっぱり自分がいなければ上の人がいないわけです。ですから、私は自分なりにこの仕事に誇りをもって、自分がいなければいけないということを自負しています。どんな職業でも、色んな人たちが、自分の持ち分、役割をお互いに支えていると思うんです。だから自分の仕事を精一杯やることで、次の仕事をやる人に対して、使いやすさなどの面で貢献できればいいですよね。普段の生活でもそうだと思います。地域の中に生きていて、人はお互いそれぞれに支えられている。これも仕事をするうちに意識するようになったことです。やっぱり仕事をしながら出てくる一つ一つのトラブルは克服していかなければいけないですから。人間関係は大事なんです。


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