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1.音楽は言葉を超える~ミュージシャンのお仕事~

 

田中さん: キャリナビの取材を受けていて何なのですが、僕は人に対して自分の生き方について言えるような偉い立場でもないし、"この人がカッコイイ!"というところに出るような人間でもないと思っています。自分の将来について、キャリナビのHPを見ながら悩んでいる人もいらっしゃるでしょうが、僕も"自分はどうしたらいいのか"について迷い、自分のやりたいことの焦点が合わないまま大人になってしまったタイプでした。ですから、一先輩の体験談として話を聞いてもらえるといいと思います。

記者(以下、記): どんなお話がうかがえるのか楽しみです。それではまず、現在のお仕事の内容について教えていただけますか?

田中さん: サックスの演奏を中心に、ジャズクラブ等での演奏や、ポップス、CM、TV、映画音楽などのレコーディングをやっています。他にも編曲や作曲、自分の所属しているバンド*「sembello」(注1)、*「東京中低域」(注2)などでも、ライブ、コンサート、レコーディング活動をしています。そういえば、キャリナビのナビゲーターさんである上山高史さん(ジャズボーカリスト)のステージに出演した折に、キャリナビスタッフの方が観にこられていたのがこのインタビューを受けるきっかけでしたね。同じくナビゲーターの嶋津健一さんは大学のジャズ研の先輩です。現在のところ、音楽教育に関しては携わっていないのですが、将来的には挑戦してみたいと思っています。

記: さまざまな分野でご活躍されていますね。

田中さん: そうですね。元々どんな音楽でも良いものは好きでしたし、これからも、多様なジャンルに対応できる独自のスタイルを確立していきたいと思っています。諸技術の発展(コンピューターによる音楽制作やカラオケの蔓延etc)により、昔より生演奏が行われる機会が非常に減っています。そのような中で、柔軟なスタイルはより重要になってきていると思います。加えて、ミュージシャンには、芸術家であり、人を楽しませるエンターテイナーである側面や職人としての技術が必要であるというように、多様な要素が含まれています。相乗効果となるように、今後も活動の幅を広げていきたいです。

記: 今までで、1番印象に残っているお仕事は何ですか?

田中さん: 印象に残る仕事は多いですね。例えば、憧れていたミュージシャンと共演できることはミュージシャンの特権ですから。僕の場合は*ボズスキャッグス(注 3)とか。非常にユニークな音楽経験という点で言えば、2、3年前にルーマニアの*ジプシー(注4)のバンドと一緒に演奏したことです。そのバンドは、それまでに全く聴いたことのないような民族色の強いサウンドをしていました。ジプシーのバンドは、元々冠婚葬祭の時に音楽を提供するのが代々の仕事で、時には丸々2日間演奏し続けることもあるそうです。村民全員がミュージシャンであり、代々村独自の伝統の音楽を受け継いでいくのですが、それがバンドのサウンドにも現れていました。メンバーは楽譜も使わず、英語もひとりくらいしか話しませんでしたので、普通に考えればコミュニケーションをとることは難しい状況ですよね?しかし、一緒に演奏をする事は何の問題も無く、素晴らしい時間を共有できました。こういう時に、音楽は言葉を超えるということを体感しますね。

記: 音楽が言葉代わりということですか?

田中さん: 言葉代わりというか、音楽は非常に抽象的であるということもあり、言葉を超えた共通言語になりうるのだと思います。しかもおもしろいことに、一緒に演奏すると、最初の瞬間にその相手がどれぐらいの力量かがわかります。ミュージシャンとして駆け出しの頃は、人と競争することに目が向きがちでしたし、自分の尊敬している人達と一緒に演奏すると"この程度か"と思われたくないあまりに力んでしまい、余計に演奏できなくなってしまったりなんて事もありましたよ。それでも経験を積んでいくうちに、自分と演奏している音楽、そして共演者を調和させる事に意識が向くようになりました。向上するためには競争心も時には必要ですが、音楽は自分と違う他者との関わりによって形成されている、ということを忘れてはいけないと思います。聴き手や共演する人がいないと、成り立たないのですから。そして、音楽を聴いてくれる人がそこから何かを感じ取り、感動したり、それに触発されて物を作ったりと、いろいろな反応が生まれれば素晴らしいことだと思います。

記: 田中さんが演奏をされる時は、どのような思いで取り組まれているのですか? 

田中さん: 僕自身は、そこまで具体的なメッセージ性を持っているわけではありません。自分が感動したこと、感じたこと、音楽の持つ魅力だとか、音楽の題材などが聴き手にうまく伝わっていればいいと思いますが、それをどう受け止めてもらうかは相手次第でもありますよね。料理人と一緒で、自分が作った料理を、相手が美味しいと思うかどうかはわからないじゃないですか?自分は一所懸命作ったけれど、相手は体調が悪くて美味しいと思えないかもしれません。演奏もそれに近いんではないでしょうか。自分に関して言えば、日頃は音階だとか和音だとか構成だとか、色々考えながら練習をしますが、本番では無心に、とにかく一生懸命集中して演奏するようにしています。

記: どうすれば相手に届く演奏になるのですか?

田中さん: 例えばボールがあるとします。このボールが相手に届くように投げるには、「届けよう」と思って投げないと届かないじゃないですか。どうでもいいと思って投げると、その辺りに転がってしまうでしょう?音楽もそれと同じだと思います。と同時に、自分では意識していないところで感動してもらえる場合も多々あるのですが、、、不思議ですね。

記: 意思は伝わるものなのですか?

田中さん: そうですね。意思がないと有るでは大違いでしょうね。視線を感じることがあるでしょう。それは見ている人の意思があるから、「見られている」とわかるのではないでしょうか。話はちょっとそれますが、人が作り出すものは、人間の頭の中に浮かんだものの具現化ですよね?フライパンやグラス、小説や音楽も頭の中の世界に存在することが第一です。もし人間がそれを思い浮かべていなければ、存在しなかったのですよね。意思は伝わるものだし、有形無形のモノになりえますよね。

*「sembello」(注1)・・・沖祐市(おきゆういち、東京スカパラダイスオーケストラのキーボーディスト)とのバンド。アルバム「sembellogy」、映画「新・仁義無き戦い~謀殺」サウンドトラックを発売

*「東京中低域」(注2)・・・バリトンサックス11人によるアンサンブル。オリジナル「in the mass」他、計4枚のアルバムをリリース。

*ボズ・スキャッグス(注3)・・・アメリカ南部出身のシンガーで、1970年代後半に活躍した「アダルト・オリエンテッド・ロック(AOR)」の代表的アーティストとして知られている。彼が1976年に発表したヒットアルバム「DESTROY THE MUSIC」に収録されている、名バラード「We’re All Alone」などが有名。

*ジプシー(注4)・・・ヨーロッパの移住民族で、インドが起源と言われている。音楽などで生計を立てている。被差別民。東欧のジプシーは主に、ロマーニ(romani)という言語を持ち、農村で暮らすグループが多い。フラメンコを含めインドからヨーロッパに渡る民族音楽に、広い範囲で影響を与えている。

 
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