■ 冊子名: NAVIS
■ 出版社: みずほ情報総研
■ 形態: 冊子
■ 発行部数: 5万部
NPO法人キャリナビが運営するウェブサイト「インターネットのお仕事人(R)」では、銀行員、介護職、公務員から映画監督まで400人近い人が職業観、人生経験を語る。団体代表のしぶやゆかりさんは、登場する大人たちのことを、「働くこと」に戸惑う若者達を導く、ナビゲーターと呼ぶ。
「働く実態」を思い描けず不安な若者たち
サイトに掲載している記事は、大学生を中心とした就職前の若者が、さまざまな分野で働く方にインタビューしてまとめたものです。取材を経験すると、ほとんどの若者が「社会人になることが不安だったけれど、お話をうかがって安心した」といった感想を口にします。
彼らの不安は、多くの場合「社会人生活」の実像を知らないことに根ざしているようです。学生時代までに出会う大人は、親と先生、アルバイト先の上司ぐらい。これら少ない例になぞられて、自分の「働く姿」を詳細に想像するには限界があります。こんな若者達に、社会で働く先達、つまりナビゲーターに会ってお話を聞く機会を提供し続け、10年になりました。
具体的には、「オンリーワン・トレーニング・プログラム」というプログラムを実施しています。学生メンバーになると、6ヶ月の在籍期間に2回、ナビゲーターの取材と記事制作を担当します。また、他のメンバーの担当取材に同行し、合計で15人くらいの「大人」に会います。さらに週一回のミーティングでは、他の取材者の報告も共有するなどして、多くの大人たちの働き方や職業生活の紆余曲折を知ります。
この経験を通して、若者は多くのロールモデルを得ます。すると、就職や将来について悩んだ時、自身の経験値は少なくとも、ナビゲーターの経験や言葉を思い返し照らし合わせることで、自分を客観視できるようになります。
そもそもキャリナビの活動は、私自身の必要から生まれました。サラリーマン家庭で育った私は、漠然と「社会に出るとは会社に属することだ」と思っていましたが、肝心の「サラリーマンはいったい毎日何をしているのか」という仕事の”中味”はわかっていませんでした。折りしも大学院の卒業を控えた10年前は、まさに”就職氷河期”。「自分は社会に必要とされているのか」「働くとは」など、切迫感にも似た悩みを友人と話し合う毎日の中で、あるとき「働いている大人に聞いてみよう」と思い立ったのです。
そこで、医療関係者や商店主の方など身近な大人たちに、どのような経緯で現在の仕事に就いたのか、具体的な日々の業務、辛いことや達成感などを聞いてみたのですが、これは目からウロコの落ちる経験でした。仕事の実態もさることながら、誰もが日々の小さな失敗や成功の積み重ねを経て少しずつ自信を深め、誇りを持ち、新たな夢を育んでいることを知ったのです。初めて「働く」ことが、辛いけれど楽しい、リアリティのあるものとして人生の延長線上に見えました。この感動を伝えたいと、サイトを作って発表したのがキャリナビの始まりです。
スタート当初はビジネスプランなどなく、「大人たちの経験を若者が知ることには意味がある」という直感のみが頼りでした。徐々に共感してくれる人が集まる中で、組織を組み立て、事業をプログラム化し、インターネット記事を抜粋した書籍の編集・発行、イベントや講演などへと、活動が発展して今日に至っています。
キャリナビに関わる人々には、それぞれに強い”思い”があります。若者の「働く大人の実状を知りたい」という切実な思い、ナビゲーターの「若者に応えたい」という真撃な思い、これらの人々をつなぎたいという私たちスタッフの思い・・・。例えば、キャリナビの予算規模は年間1千万円に満たないこともあり、多いときでも2〜3千万円程度で運営してきました。しかし、ボランティアの働き、物品提供、事務所スペースの無償貸与など、実際は決算書類に現れる数字の数倍の価値が動いています。これは、キャリナビの趣旨に賛同して下さる方々の熱い思いで成り立つ価値です。活動3年目にNPO法人格を取得したのは、経営戦略というよりは、こうした”思い”をもった人々を巻き込んでいくには、一般的な企業とは異なる形態のほうが合うと思ったからです。
営利活動では労働や物品の提供に価値を支払うのに対して、非営利活動では関わる人々の”思い”を満たすことが求められていると感じています。人々の思いを満たし、良好な関係性をマネージメントしていくことは、ときに金銭で報いるよりもはるかに難しいと感じる場合も多くあります。10年続けてみて、こうしたボランティア・マネージメントは、実は特殊なスキルなのだと改めて思うようになりました。
これからの時代、”思い”をマネージメントすることで発展するモノゴトも増えるのでは・・・そんな予感がしています。