債権譲渡禁止特約とは
請負契約では「債権譲渡禁止特約」の記載が多く見受けられます。
これは、その名の通り債権(売掛金)の譲渡を禁止した規定で、ファクタリング会社が特約の存在を知りながら当該債権を買い取った場合、譲渡そのものが無効となってしまう恐れがありました。

そのため、ファクタリング会社は特約付きの売掛金は原則買取を断っており、「売りたくても売れない」という状況に立たされることも珍しくありませんでした。
特約を付ける理由として「支払先が煩雑になることを避けたい」「譲渡先の信憑性確認ができない(反社会的勢力に譲渡された場合、コンプライアンスに影響する)」などが挙げられます。
120年ぶりの民法改正
民法改正が2017年5月に決議され、2020年4月1日に施行されました。
債権総則の改正はなんと120年ぶりであり、私生活やビジネスなど幅広いシーンで影響を及ぼしそうです。
中でもファクタリングと関連するのは「466条(債権の譲渡性)」ではないでしょうか。
改正前 | 改正後 |
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上記が民法466条(債権の譲渡性)の新旧比較表です。どのような変化があったのかを解説してまいります。
1項及び2項について

1項(債権は原則譲渡が可能という内容)に変更はありませんが、2項については新旧で大きく変更されていることが分かります。
改正前も「反対の意思表示があれば債権の譲渡は無効」という記載がなされていましたが、改正後は「債権の譲渡が禁止・制限されていたとしても、債権譲渡は成立する」と、債権譲渡禁止特約そのものが無効であることがはっきりと明記されています。
ここが当該改正最大のポイントになります。
3項について

第3項は今回の改正で新たに加えられた条項です。
債権譲渡禁止特約の有無に関わらず自由に譲渡できることが第2項に規定されておりますが、債務者が譲渡の事実を知らなかった場合に限り「譲受人(譲渡先)への支払いを拒否し、当初の譲渡人(債権者)へ支払うことができる」という規定です。
つまり、通知や承諾を経ないまま債権譲渡禁止特約付き債権が譲渡され、債務者が誤って旧債権者に支払ってしまった場合であっても、債務者は責任を負うことはありません。
4項について

第4項は、前述した第3項に対する例外規定となります。
万が一債務者からの支払いが予定通りになされなかった場合、まず譲渡人(当初の債権者)から債務者へ催促を行い、それでも支払いに応じない場合は譲受人から直接債務者へ支払いを求めることができるという規定です。
ファクタリングへの影響
債権譲渡禁止特約の取扱が民法改正(2020年4月〜)によって大きく変わることがご理解いただけたと思いますが、具体的にどのような影響があるのでしょうか。
冒頭でも触れた通り、民法改正前は債権譲渡そのものが無効になるリスクがあったため、原則として譲渡禁止特約つき債権(売掛金)をファクタリングに利用することはありませんでした。
民法改正によって特約の有無に関わらず債権譲渡が可能となりますので、ファクタリング会社側は債権譲渡特約が存在しても安心して売掛金を買取ることができるようになります。
なお、債務者は譲受人であるファクタリング会社への直接支払いを拒む権利(民法466条3項の通り)があるため、売上金回収は利用者が担う形となることが予想されます。
企業規模が大きくなるほど譲渡制限を設けているケースが多く、当該特約はファクタリングをはじめとした「債権活用」の足跡となっていました。
民法改正はファクタリング業界にとって大きな転機となり、より一層の普及を促すものとなることは間違いないでしょう。

なお、クレジットカード売上(クレジットカード会社に有する債権)はクレジット会社の利用規約によって債権譲渡が禁止されておりましたが、法改正によってこのような債権もファクタリング可能となります。
今まで譲渡禁止特約によってファクタリングができなかった方は、この機会に是非検討してみてはいかがでしょうか。